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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)2146号 判決

原告 及川とみ 外一名

被告 国 外四名

代理人 山本金次郎 外四名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

一  原告と被告らとの間に、原告が被告らを相手方として、本件土地の自創法三条一項一号の規定による買収処分の無効を理由に、本訴と同一請求の趣旨の訴えを提起し、原告敗訴の確定判決(当裁判所昭和三三年(行)第二三号、東京高等裁判所昭和三六年(ネ)第一、六五九号、最高裁判所昭和三八年(オ)第六四〇号)がすでに存在することは当事者間に争いがない。

二  ところで、原告は、既判力の客観的範囲は、請求の趣旨のみならず請求の原因によつて特定されるものであつて、請求の原因を異にするものである限り、たとえ請求の基礎を共通にし、または牽連した法律関係であつても既判力の効果は及ばないものであるところ、前記確定判決の請求原因は「不在地主でないのに不在地主であると誤認してなした買収が無効である。」とするものであるのに反し、本訴請求原因は「買収対価の不払いによつて買収令書が失効した結果、買収そのものが無効となる。」とするものであつて、右両訴は請求の原因を異にし、確定判決の既判力の効果は本訴に及ばないものである、と主張するので、この点について検討する。

民事訴訟法一九九条一項は「確定判決ハ主文二包含スルモノニ限リ既判力ヲ有ス」と規定するから、確定判決の既判力は主文に包含される訴訟物とされた法律関係の存在に関する判断の結論についてだけ生じるものであると解すべく(最高裁昭和三〇年一二月一日判決参照)、したがつて、既判力の客観的範囲は、訴訟物の特定、すなわち、請求の趣旨のみならず請求の原因(民事訴訟法二二四条参照)によつて特定されるものとなることはいうまでもない。本件において、前記両訴はその請求の趣旨においてまつたく同一であり、その請求の原因においても、本件土地の買収処分が無効であることを前提とするものである点において同一であり、ただその無効事由につき、一方は「不在地主でないのに不在地主であると誤認してなした買収が無効である。」とするものであるのに対し、他方は「買収対価の不払いによつて買収令書が失効した結果、買収そのものが無効となる。」とするものである点において異なるにすぎないので、前訴の既判力が後訴である本訴に及ぶか否かは、結局、右のように両訴の無効事由の異なることが請求の原因を異にすることになるかどうかに帰するところ、本件土地の買収処分(前記両訴において当事者の主張する買収処分が同一の処分であることは明らかである。)の無効事由は請求を理由あらしめるための単なる攻撃防禦方法にすぎないものというべきであるから、上記のように両訴において無効事由を異にしてもそのために請求の原因が異なるものとは解せられない。してみれば前記両訴は本件土地の買収処分の無効事由を異にしてはいるが、訴訟物としては同一であるというべく、この結論は訴訟物に関するいわゆる新旧理論のいずれに立つかによつて異なるところはないと解される。したががて、本訴請求は、前記確定判決の既判力に牴触するものというべきであるから、原告の前記主張は結局理由がなく採用できない。

三  以上の次第で、当裁判所は、前記確定判決と異なる内容の判断をなし得ないものであるから、原告の本訴請求は、さらに判断を進めるまでもなく、いずれも理由がないことに帰するのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本良吉、渡辺昭、岩井俊)

目録(省略)

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